「1年半料理修行してきました。」Wharton MBAに通う30代男子の密かな戦い
(今回、新たな挑戦ということで、尊敬してやまない東京カレンダー風で書いてみました。彼らの10文字足らずで読者を引き込むタイトルは素晴らしいと思います。文才はないことがよくわかりましたが、また懲りずに書いてみようと思います。)
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フィラデルフィアに到着し、MBA生活が早くも2か月経過してしまったある日。武(仮称:たけし)は、連日のソーシャルという飲み会、そして飲み会毎に「Hey What did you do before Wharton?」「Where do you come from?」というお決まりの薄っぺらい挨拶にも少し疲れがたまってきていた。
夢に描いたMBA生活。確かにフィラデルフィアに到着した日の空はいつも以上に青く感じ、有名ファンドからの訴訟対応、そして新規設立した事業のモニタリングから解放されたことからの解放感はたまらないものがあった。
授業が始まり、有名コンサル出身、PE出身の華麗なキャリア出身の弁が立つクラスメートに埋もれて、「自分の発言って本当にクラスに貢献しているのか」と悩む日々を過ごしていたなかで、何かの面で尖りたい。と思い始めた。
MBAでの各々のキャラ設定の方法は種々ある。
パーティーにいつもいる人。
授業で必ずウィットに富んだ面白いこと言う人。
インスタに写真を大量に上げる人。
とにかくイケメン。モテる。
そんな中、武はMBAのアプリケーションで実施した自己分析をし、自分の強みは何かを考え、日本人の特性を生かし日本食を自分の特徴として売り出して行こうと決めた。
ボーイスカウトという上下関係の厳しい環境下、下からのリスペクトを獲得するために必死に獲得した料理というスキル。これを生かすしかない。
圧力鍋、包丁。まず形から入るべく道具をそろえたところで、ある程度の満足感を得ていた。「日本食作ればまぁ、間違いないでしょ。ウケるでしょ」そんな甘いキモチで臨んでいた。
しかし、そんな自信を打ち砕かれたのは、ある日自宅で日本食パーティーを開いた日のこと。
「今回は、気合入れて作った日本食。寿司、揚げ出し豆腐、野菜の煮びたし。茅乃舎のだしを使ったし、この繊細な味を伝えたい」といきこんでいた。「敬愛する栗原はるみ先生の料理…には程遠いが伝わるはずだ。」
結果としては、揚げ出し豆腐、野菜の煮びたしには残念ながらほとんど箸がつかず、刺身を切っただけの寿司が人気という事実は悲しいもので、Rolandの言葉が武の頭をよぎった。
最高の物がいつも最高の扱いを受けるとは限らないよ。子供にはロマネコンティを出すよりもコーラを出した方が喜ばれるのと同じ。きっといつか分かってくれるさ
すっかり、自分中心的に「食べてほしい料理を提供する」ことに注力し、「顧客の目線に立っていない」料理をしてしまっていたことに気づいた。MBAを学ぶ者として失格だ。武は根っからのサウナ―である。そのサウナ―のレジェンド井上氏もこう語っていた。
「やっぱり客商売って、最大の商品は“人”じゃないですか。熱波師は“熱波道”を通じて、お客さんに楽しみを届けるエンターテイナーなんですよ。やってみればわかりますが、メチャクチャツライ。でも、その一生懸命さをお客さんは見て盛り上がるんです」
武もようやく気付いた。料理が商品なのではない。私自身が技術を向上させ、皆をエンターテインしなければならない。
その後は、様々な試行錯誤の日々だった。様々な友人を家に呼び、色々な料理を試した。ブラジル人、メキシコ人、中国人、韓国人、もちろん現地のアメリカ人。日本食だけではなく、中華、イタリアンまでも。
時に、自分のエセ料理人としてのプライドが捨てきれず、煮びたし、豆腐料理等も作って出した。しかしながら、最後に出したしょうゆとバターで焙っただけの焼きおにぎりに評価は負けた。
結論としては、
シンプルが何よりも大事。複雑さを追求するよりも素朴さが良い。そして、肉。
と結論づけた。
いくつかの鉄板ネタを作り「日本食なら武の家に」とまで(はいかなかったが)、評価を上げるべく邁進している。まだまだ、先は見えない孤独な戦いを彼は続ける。
以下は、参考までにいくつかの武のレパートリーである。